頭部外傷や脳虚血などの脳損傷に対する現在の治療法は、頭蓋内圧のコントロールを主体とした2次的な脳損傷の抑制であり、不可逆的に傷害された1次的脳損傷に対する根本的な治療手段は未だ開発されていない。本研究は、外傷性および虚血性脳損傷後の機能回復を可能にする新規治療法の開発を目標として、側脳室周囲に存在する内在性神経幹細胞からの新生ニューロンの産生が、脳脊髄液中あるいは血管網周囲に分泌される可溶性蛋白質による制御を受けているとの仮説に基づき、新生血管や脈絡叢の血管内皮細胞が産生する生理活性物質を利用した細胞療法へ向けた基礎研究を行った。 血管内皮細胞由来の神経幹細胞活性化因子について、平成21年度は以下の成果を得た。神経幹細胞に対するニッシェ因子として、骨髄由来の血管内皮前駆細胞が特異的に分泌する45kDの蛋白質EPC niche factorを同定した(投稿準備中)。EPC niche factorのアミノ酸配列はこれまでに神経幹細胞に対するニッシェシグナルの候補蛋白質として脳内の血管内皮細胞に発現が確認されたpigment epithelium-derived factor(46kD)とは異なり、ニッシェ因子としては新規の蛋白質であった。EPC niche factorの発現は、成熟血管内皮細胞や骨髄間質細胞、血管内皮細胞セルラインでは認められず、幼若新生血管に特異的であった。同定されたEPC niche factorに対する抗体を用いて、野生型マウスの新生ニューロン産生領域(neurogenic niche)における加in vivoでの発現を免疫組織学的に確認した。このEPC niche factorのrecombinant蛋白質、ならびにsiRNAによってこの因子をknock downした培養血管内皮細胞から得た液性因子を用いて、in vitroで神経幹細胞の自己複製への効果を検証した。
|