頭部外傷や脳虚血などの脳損傷に対する現在の治療法は、頭蓋内圧のコントロールを主体とした2次的な脳損傷の抑制であり、不可逆的に傷害された1次的脳損傷に対する根本的な治療手段は未だ開発されていない。本研究は、外傷性および虚血性脳損傷後の機能回復を可能にする新規治療法の開発を目標として、側脳室周囲に存在する内在性神経幹細胞からの新生ニューロンの産生が、脳脊髄液中あるいは血管網周囲に分泌される可溶性蛋白質による制御を受けているとの仮説に基づき、新生血管や脈絡叢の血管内皮細胞(endothelial progenitor cell. EPC)が産生する生理活性物質を利用した細胞療法へ向けた基礎研究を行った。 EPC由来の神経幹細胞活性化因子として、平成20年度に同定された蛋白質"EPC niche factor"について、平成21年度は以下の成果を得た。遺伝子学的に作成したリコンビナントEPC niche factorは、マウス大脳線条体由来の神経幹細胞に対して自己複製促進効果を有することを確認した。EPC niche factorのsiRNAをEPCにトランスフェクトさせ、EPCからのEPC niche factorの産生を阻害することにより、神経幹細胞に対する自己複製促進効果は消失した。生体内においても、成体マウス側脳室下帯のEPCにEPC niche factorの発現が認められることを免疫組織学的に検出した。 また、神経幹細胞のマーカー蛋白質として知られるnestinが、マウス骨髄由来のEPCにおいても発現していることを、EPC niche factorに関する一連の研究により発見した。神経幹細胞において特異的にnestinの発現を誘導するnestin遺伝子の第2イントロンェンハンサーは、EPCにおいては発現していないことを遺伝子改変動物による実験から明らかにした。
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