研究概要 |
脊髄損傷における2次障害の原因として,近年酸化ストレスの影響が注目されている.Heme Oxygenase (HO-1)はHemeを分解し生体内で抗酸化物質を産生し、酸化ストレスに対する防御機構の一端をなす.過去の研究から、HO-1の抑制因子Bach1のノックアウトモデルでは、HO-1遺伝子の発現が強く誘導され、その結果、動脈硬化をはじめ肺障害、心筋障害といった酸化ストレスが関与する障害を抑制することがわかっている.本研究の目的はBach1ノックアウトマウスの脊髄損傷モデルを用いて、HO-1による損傷後の障害抑制効果を明らかにすることである。8〜10週齢のBach1ノックアウトマウスとワイルドタイプマウスを本実験に用いた.Bach1ノックアウトマウスはC57BL/6Jマウスを最低12代バッククロッシングすることで作成した.マウス用に改造したNYUインパクターを用いてT10高位で脊髄を損傷した.術後42日まで麻痺の推移を調べた.その結果,Bach1ノックアウトマウスではワイルドタイプマウスに比べ,有意に麻痺の改善がみられた.術後3〜42日後に脊髄を取り出し組織学的検討を行った.損傷中心から250μm頭尾側で42日後の障害組織面積を計測した.その結果,Bach1ノックアウトマウスではワイルドタイプマウスに比べ,有意に障害面積が小さかった.損傷中心とその250μm頭尾側で42日後の損傷中心とその250μm頭尾側で42日後のNeuN陽性細胞数を計測した.その結果,Bach1ノックアウトマウスではワイルドタイプマウスに比べ,有意に神経細胞の数が多かった.本研究から,HO-1の抑制因子Bach1のノックアウトマウスで脊髄損傷後組織障害と麻痺が有意に抑制されることが明らかになった.そして酸化ストレスが脊髄損傷における2次障害の原因となっていることが証明された.
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