我々は神経誘発電位に代わる新しい非侵襲的な神経機能診断方法の開発を目的として神経磁界測定を行っている。動物実験の結果より、神経障害部位における誘発磁界の変化は解明されつつあり、これを臨床応用すべく健常者・患者における磁界測定を行なっている。 具体的には、H21年度においては健常者2人、頚椎疾患患者約40人の頚部での磁界測定を行った。刺激は、胸椎部での硬膜外電極での刺激や、上肢の末梢神経の刺激にて行い、ほぼ全例の被検者において頚部を伝搬する脊髄誘発磁界を捉えることに成功した。磁界計測が可能であった患者のうち9割程度の患者で障害部位の特定が可能であった。 障害部位診断には、胸椎部での硬膜外電極刺激により得られた波形から、検者が主観的かつ経験的に推定することにより行っているが、磁界から電流限解析を行なうことにより、その電流源から定量的解析を行い客観的に障害部位診断を行う試みも行った。今年度により新たに採用したアルゴリズムを用いて、従来の方法と同様に9割程度の患者で障害部位の特定が可能であった。まだ限定的な用途ではあるが、実際の臨床応用が可能なレベルまで精度の向上が得られた。硬膜外電極を用いない方法で測定を行うことが出来れば、完全に非侵襲的なヒト用脊髄神経磁界測定装置の完成といえるだろう。 また、昨年度に引き続き腰椎での神経誘発磁界測定も5例ほど行なった。そのうち腰椎椎間板ヘルニアの1例において、障害部位の診断も可能であった。頚椎と同様、腰椎においても非侵襲的な機能診断検査として臨床での使用が可能と考えられる。
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