研究概要 |
骨肉腫の治療成績は画像診断の進歩、化学療法薬剤の開発により飛躍的に進歩し、専門施設における5年生存率は約70%まで向上してきた。しかし最近10年間での進歩はなく、残る30%は症例の既存の治療法に対して抵抗性である。さらに多くの予後報告では除外されている、初診時にすでに遠隔転移を生じている症例(以後M1症例)の予後は著しく不良であり、5年生存率は10-40%にまで低下する(J Clin Oncology 21,2011-8,2003)。M1症例は骨肉腫全体の20%を占め、M1症例の病態を究明することは骨肉腫全体の治療成績の向上にもつながると考えられる。この見地から、これまでM1症例の生物学的特徴について、ゲノムレベルのいくつかの研究がなされているが未だ共通した特質は明らかにされていない。本研究では近年発生、癌化、分化へ深く関与していることが明らかにされつつあるDNAメチル化に着目し、これまで数個の遺伝子について断片的に行われてきた解析を、ゲノム全体のメチル化プロファイル(以下メチロームと称する)の解析を通して、骨肉腫M1症例の特質を解明することを行った。M1症例2例におけるChIP on Chip法を用いた転移に関与するメチル化修飾遺伝子の網羅的解析を行った。この結果、M1症例1例でメチル化されている遺伝子は485個、もう1例では1184個で、共通しているのは76遺伝子であり、この中には癌腫において予後との関連が明らかにされているProtocadherin 20 (PCDH20), Insulin-like growth factor binding protein, acid labile subunit (IGFALS)などが含まれていた。このPCDH20, IGFALSをRT-PCRにて解析した結果、骨肉腫M1症例2例についてはメチル化陽性と判定された遺伝子のmRNA発現は認めず、正常の骨髄間質細胞では発現を認めた。今後は更に非M1症例におけるメチル化修飾、正常組織との比較を行い、骨肉腫M1症例の生物学的特性を明らかにしていく予定である。
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