我々は本研究において、fMRI(functional MRI)を用いて、表在感覚刺激に呼応する脊髄内の神経活動の検出を目的に脊髄fMRI法の確立を試みた。昨年度までの研究により、3 teslaの高磁場MR装置を用いてGradient-echo EPI撮像法により、変形はあるものの脊髄像を描出することに成功した。しかし、fMRIでの評価基準となるBold signalの評価には問題があり、脊髄内の1点に座標を設定し、その座標におけるBold signalを時間経過でプロットしたところタスクフリーの脊髄でもBold signalが著しく変化していることが確認された。このことは、たとえ脊髄の形態画像抽出に成功しても、時間系列の機能画像にすると神経信号以外のノイズが大きな影響を与えていることを示しており、脊髄内の神経活動信号がマスクされうる可能性が考えられた。そこでBold signalの安定化のため、被検者に頚椎カラーを装着させると、タスクフリーの脊髄中央部におけるBold signalはカラーなしの場合と比較して、信号変動がより安定化することが確認された。本年度は、頚椎カラー装着状態で被検者の手掌に感覚刺激を与え、その際にC4-6高位での頚髄部灰白質から描出されたBold signalの統計処理を行った。タスクは被検者の右手-前腕をシーネ固定し右手掌中央部に痛みを感じる程度の刺激(刺激:6秒間、安静:24秒間)を合計12サイクルのブロックデザインで行った。その結果、C4-6高位において頚髄部灰白質に一致した部位に、痛みタスクに呼応した統計学的に信頼性のあるBold signalが検出され、脊髄内のリアルタイム神経活動を捉えていると考えられた。一方、得られた脊髄内神経活動信号には個人差も多く、この点について注意深い検討が必要と考える。
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