研究概要 |
滑膜間葉幹細胞はその高い軟分化能により軟骨再生における有用な細胞源として期待される。安全な臨床応用のためには牛胎児血清の代替として自己血清の使用が必須である。我々はこの2種類の血清を増殖および軟骨分化能という観点において比較しその応答の違いについて解析した。また細胞種による血清への応答の違いを解析するために骨髓間葉幹細胞においても比較した。 滑膜組織、骨髓液および全血を膝前十時靭帯再建術を受ける18人のドナーより採取した。閉鎖式採血バッグを用いて採取した全血より血清成分を分離した。滑膜組織はコラゲナーゼ処理、骨髓液は密度勾配遠心分離にて有核細胞を分離した。コロニーを形成する濃度で播種し、培地に自己血清または牛胎児血清を添加して14日間培養した。得られた滑膜、骨髓間葉幹細胞を各自己血清、牛胎児血清を用いて培養し増殖能、コロニー形成率、継代能、マイクロアレイを用いた遺伝子プロファイリング、フローサイトメトリーを用いた表面抗原解析、In vitro軟骨分化能などに関して解析した。また8人のドナーの自己血清内の血小板由来増殖因子(PDGF)-AA,AB,BBおよびトランスフォーミング増殖因子(TGF)-βの濃度を酵素免疫測定法を用いて定量した。 ヒト滑膜間葉幹細胞は自己血清において牛胎児血清よりよく増殖し、骨髓間葉幹細胞ではその逆であった。階層型クラスタリング分析では血清の違いよりも細胞種の違いのほうがが遺伝子発現により影響した。ヒト血清は血小板由来増殖因子(PDGF)を多く含み、滑膜間葉幹細胞はPDGF-・受容体を強く発現していた。ヒト血清にPDGF中和抗体の添加することにより滑膜間葉幹細胞の増殖は抑制された。 この結果は滑膜間葉幹細胞が「自己血清添加での培養」という観点で臨床応用に適した細胞種であることを示唆するものであると考える。
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