本研究では我々のめざす滑膜由来間葉幹細胞を用いた細胞治療の臨床応用に際し、10人のドナーから得られた滑膜、骨髄間葉幹細胞の増殖能を比較し、滑膜間葉幹細胞では10人中8人のドナーにおいて自己血清にてよりよく増殖し、骨髄間葉幹細胞では10人中8人のドナーにおいて牛胎児血清にてよりよく増殖することを確認した。さらに「自己血清使用」という観点から滑膜間葉幹細胞の臨床応用に際する有用性をin vivoの軟骨欠損モデルで検討した。 マイクロアレイによる階層型クラスタリング分析を用いると血清の違いよりも細胞種の違いのほうが遺伝子発現により影響していた。さらにフローサイトメトリーにより表面抗原の発現を解析するとPDGFR-aの発現が細胞種間で異なり、滑膜間葉幹細胞では42%に発現しているのに対し、骨髄間葉幹細胞では6%であった。ヒト血清内にはPDGFが豊富に含まれており、その主成分はPDGF-ABであった。PDGFが細胞増殖におよぼす影響を検討するために血清内PDGFを中和するとヒト自己血清では滑膜間葉幹細胞では3ドナー中3人、骨髄間葉幹細胞では2人で増殖の抑制が示されPDGFがヒト血清内で増殖因子として働いていることが示された。 自己血清、牛胎児血清で培養した滑膜、骨髄間葉幹細胞のin vitro軟骨分化能をペレット培養により比較すると、牛胎児血清で前培養した滑膜間葉幹細胞はヒト自己血清のものより重い軟骨塊を形成した。ウサギ軟骨欠損モデルを用いてウサギ滑膜間葉幹細胞のin vivo軟骨分化能をウサギ自己血清と牛胎児血清にて比較した。結果は滑膜間葉幹細胞移植した「自己血清群」「FBS群」は「欠損群」に比べ良好な修復を認めたが、血清種による違いは認めなかった。
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