様々な組織に存在して多分化能を示す間葉系幹細胞のうち、滑膜由来細胞は特に高い軟骨分化能を示す。このような由来組織に基づく間葉系幹細胞の性質の相違には、潜在的にエピジェネティックな相違の関与が推定されるが、間葉系幹細胞のゲノムDNAメチル化レベルについて、これまでには十分に検討されていなかった。我々は本学附属病院における膝関節手術により同意を得て採取された滑膜由来間葉系幹細胞を用いて、軟骨細胞への分化誘導をペレット培養法により行い、その前後におけるゲノムDNAのメチル化状態を検討するため、選別された候補遺伝子ロモーター領域についてメチル化候補領域の推定をおこない、それぞれについてバイサルファイトシーケンス法による解析を行った。その結果、骨・軟骨系細胞への分化制御を中心的に担うRUNX2およびOSX遺伝子やSOX9遺伝子などのプロモーター配列中に存在する富CpG領域における低メチル化状態は、軟骨細胞への分化誘導を行なっても明らかな変動を示さず安定的に維持されていた。また軟骨細胞への分化誘導過程において大きく発現増加する遺伝子群と、反対にほぼ完全に発現が抑制される遺伝子群におけるプロモーター領域について解析した結果、大半の遺伝子について分化誘導前後におけるメチル化状態は変動することなく安定していたが、唯一SDF1遺伝子の上流約1kbの領域については軟骨細胞分化後にメチル化レベルは減少して、遺伝子発現の抑制とは逆説的な変動を示すことが判明した。このようなメチル化レベルの相違は成人関節軟骨の層別の相違としても同定することができた。滑膜由来間葉系幹細胞の軟骨細胞分化の過程においてゲノムDNAのメチル化変動は稀な現象であり、エピジェネティックな制御は比較的安定的であることが示されたが、稀なメチル化変動領域は候補遺伝子領域アプローチ法によっても同定可能であることが示された。
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