軟骨マトリックスを分解する主要酵素であるMMP-13は、関節リウマチや変形性関節症(OA)などの病態における軟骨破壊への関与が指摘されているが、その標的となる生体活性分子や下流で作動するシグナル経路の詳細は明らかにされていない。われわれ が作製したMMP-13欠損マウス(KO)は野生型マウス(WT)と比べて、機械的ストレスによるOAモデルの誘導には差を認めなかったが、II型コラーゲン抗体カクテルを投与し関節炎を惹起すると、KOでは亜急性期における関節炎スコアが有意に低く、ミエロイド系細胞の集積が減少し、滑膜増生と骨軟骨破壊が抑制されていた。また生理的な表現型としてKOは加齢とともに骨硬化症となるが、増加した骨量はOVXによる高代謝回転誘導に抵抗性であった。骨形態計測では骨形成パラメータに差を認めなかったが、KOでは骨吸収面が有意に減少し、結果として二次海綿骨量が明らかに増加していた。また、KO由来の骨芽細胞との共存培養で誘導される破骨細胞は小型で大きく広がらず、象牙質切片上での吸収窩形成活性が低下していた。さらに、KOの骨硬化症はWT由来の全骨髄移植によってレスキューされたが、致死量の放射線を照射したWT骨髄の造血微少環境はKO由来の全骨髄移植によって改善されなかった。そこで、MMP-9欠損マウスと交配しMMP-9・MMP-13ダブルKOを作製すると、胎生期肢芽への血管侵入の障害と肥大軟骨細胞層の延長が相乗的に増強され、一次骨化形成後は海綿骨骨梁によって骨髄腔が閉鎖し、四肢短縮型の骨硬化症を呈した。以上の結果から、MMP-13遺伝子の欠損によって、炎症環境下での骨髄由来ミエロイド系細胞の動員、および内軟骨性骨化過程において末梢を循環する造血系前駆細胞のホーミングに障害が生じることが考えられ、MMP-13は関節炎局所および軟骨性骨原基における走化性因子を活性化する役割をもつ可能性が示唆された。
|