目的:出血性ショックの後にどのようなメカニズムで鎮痛反応が生じるのかは不明である。我々は以前この鎮痛反応がナロキソンでは拮抗できないが、片側の副腎を破壊すると変化することを発表した。ニューロステロイド合成酵素(チトクロームp450scc)は、知覚神経の伝達経路に多く分布しているので、このショック後の鎮痛反応に関与している可能性がある。今回ラットで出血性ショックモデルを作成し、その中枢神経を抗チトクロームp450scc抗体と抗c-fos抗体で染色して、ニューロステロイド産生細胞の活動上昇がみられるか検討した。 方法:9週齢雄のSprague-Dawleyラット30匹を、対照群・カテーテル留置群・出血性ショック群・副腎破壊出血性ショック群。副腎破壊カテーテル留置群の5群に分けた。出血性ショック群では30分間平均血圧が60mmHgになるよう脱血を行った後返血した。カテーテル留置群では脱血は行わず血圧・心泊数の観察のみをおこなった。90分後、安楽死させ脳脊髄神経を採取し免疫染色をおこなった。 結果:出血性ショック時には、後根神経節・脊髄後角あるいは延髄・中脳の疼痛抑制系神経細胞よりも、海馬・分界条床核・室傍核など上位中枢において大きな活動性の変化が生じていた。また、活動性の確認された神経細胞の多くはニューロステロイド産生細胞であることから、出血性ショックにおいては脳内においてもステロイドホルモン産生が亢進することが推測された。今回の結果のみでは、片側の副腎破壊による影響は判然としなかったが、今後ニューロステロイド・ホルモンのなかでも鎮痛作用を有することが知られているアロプレグナノロンの免疫染色を行えば、この点についても明らかになることが予想された。
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