まず今回の研究成果の第一に挙げたいのは、人工心肺使用により血小板は活性化および消費され、術後血小板数の減少および機能低下が報告されているが、本研究に置いて、希釈式自己血輸血が体内の血小板機能に及ぼす影響を検討し、若干の知見を得たことである。 すなわち、人工心肺使用以前に希釈式自己血貯血400mlを行い常温にて保存した。人工心肺使用後に自己血を返血するか否かにより自己血返血群、非返血群にわけた。全血凝集能を、フローサイトメトリ法により血小板α顆粒膜上に存在する糖蛋白で血小板活性化に伴い膜表面に分布するP-セレクチン(CD62)、血小板上のαIIb β3が血小板活性化に伴い構造変化をおこした時に発現するPAC-1の測定もあわせておこなった。また、血小板濃染顆粒から放出されるATPをルミノメーターを用いて測定した。この結果、両群とも人工心肺離脱後自己血返血前には、血小板機能の低下が確認されたが、自己血返血直後から自己血返血群において血小板凝集能の回復を認めた。 希釈式自己血返血には若干の血小板が含まれており、この血小板が大きな役割を果たしたものと考えられる。つまり術中自己血返血により一旦機能低下に陥った体内血小板であっても、新鮮な血小板より放出されるトロンボキサンなどの血小板刺激効果のある物質により刺激を受け凝集を惹起されたものと考えられた。 また、このような人工心肺使用後の血小板ではアポトーシスの誘導がかかっている可能性を示唆する知見も得ている。 また現在、精神科領域のうつ病などの患者も、手術室で全身麻酔下に電気けいれん療法を行うこともしばしばである。そのような患者群で、血小板機能や凝固能の亢進を示唆する知見も得て、目下そのメカニズムを解明するため研究を続行中である。
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