2003年に生後1週間目のラットにNMDA receptorのantagonistである吸入麻酔薬や鎮静剤の投与がその後の脳の神経変性を引き起こし、その後の学習効果が生じると報告された。吸入麻酔薬のこの作用には、吸入麻酔薬による暴露時期と暴露時間が大きく関与している可能性が考えられる。そこで今回、吸入麻酔薬であるイソフルランによるマウスへの暴露がその時間と時期とで脳の高次機能に影響を与えるかどうかを検討した。方法は時間的因子の検討として、生後7日目(脳の神経ネットワーク形成時期に相当)のマウスへの吸入麻酔薬の暴露時間を1、3、6時間と変えて、イソフルラン群と対照群に分け検討した。次に時期的因子の検討として、生後2、3、4週間目に6時間暴露させて検討した。生後7日目のイソフルランの暴露では暴露時間が短くなるにつれ、海馬の歯状回での神経変性が軽減され、迷路学習効果は低下しなかった。一方、時期的因子検討では生後2、3週間と週数が増加するにつけ、海馬歯状回での神経変性は軽減され、4週間目ではほとんど影響は認められず、迷路学習にも影響は与えなかった。 ラットの生後7日目は、ヒトの生後約6ケ月に相当し、脳の神経ネットワークの形成時期である。この脳神経系の脆弱な時期に吸入麻酔薬の6時間という暴露時間がヒトの6時間と同等であるかどうかは問題であるが、イソフルランの暴露によるその後の脳の変性には暴露時間と時期が大きく関与していることが判明した。
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