研究概要 |
近交系マウスのうち低酸素性呼吸応答(HVR)の良好なDBA2J系マウス(DBA/2J)と不良なA/J系マウス(A/J),そして両マウスを交配合して作成したマウス(F1)の頚動脈小体(CB)の形態学的発達について検討し,以下の結果を得た。1)全てのマウスの出生直後のCBの形態は同様(多数のglomus細胞が存在し,神経や血管などの他の組織と境界は明瞭)で,多数の正常なglomus細胞(大きく丸い核を持つ)が存在し,大きさも同程度であった,2)DBA/2JのCBの発達は良好で,出生8週間後においても正常なglomus細胞を多数認め,他の組識との境界も明瞭であった,3)A/JのCBの発達は不良で,次第に正常なglomus細胞の細胞数は減少し,他の組織との境界も不明瞭となり,大きさも小さくなった,4)F1のCBの発達では,正常なglomus細胞がある程度保たれていたものの,他の組織との現界も次第に不明瞭になり,A/J程ではないが大きさも小さくなっていった。タイロキシン・ハイドロキシラーゼ(TH)染色(ドパミン含有細胞が染まる)で評価した正常な機能を有するglomus細胞の数は,出生直後のDBA/2J,A/J,F1のCBでは大きな差が認められなかったが,DBA/2Jでは認められなかった減少が,A/J(出生8週間後にはほぼ消失)およびF1(出生8週間後にもDBA/2Jの半数程度が観察された)では成長とともに減少した。出生8週間後のCBにおけるGlial Cell-deliverd neurotrophic factorのmRNAの発現率を調べたところ,A/JはDBA/2Jと比較して有意に少なく,F1はDBA/2JとA/Jの中間であった。以上の結果から推察すると,出生後8週間にわたる経過において,Glial Cell-deliverd neurotrophic factorの減少がA/JのCBの発達不良(もしくは退化,変性)に関与し,CBの機能の低下を来し,HVRの減弱に関与している可能性が示唆された。また,その経過において遺伝的要因の存在が疑われた。
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