研究課題
近年、多くの疼痛を伴う疾患において、診断早期から疼痛治療の方針をたてることにみられるように、「痛み」への対応が重要視されてきている。しかしながら、主観的な主訴である痛みの評価は、表現方法や閾値が患者により異なり、痛みの客観的な評価が困難な状況にある。本研究は、難治性疼痛の克服を目指した治療に結びつける新たな疼痛制御物質とアミロイド物質の探索を目的とした。これまで、疼痛関連物質候補の一つとしてリポカリン型プロスタグランディン合成酵素(L-PGDS)を見いだしている。本物質は神経因性疼痛に分類されるアロディニア(異痛症)の病態発現に関与する物質である。関節リウマチ(RA)の脊髄液中に存在するL-PGDS産生物質PGD_2と、その非酵素的代謝物(15d-PGJ_2)を定量化し、本酵素の動態を分析した。L-PGDSは見かけの発現量が増大しているにもかかわらず、RA群の酵素活性が減少していることを認めた。次に、酵素活性低下の要因として、RA患者の脊髄液中に存在するL-PGDSが蛋白質変成を生じている可能性を検討した。患者脊髄液中の蛋白質を転写したプロットと抗L-PGDSモノクローナル抗体との反応は、26kDの単量体と高分子側にバンドを見出した。更に、特異抗体と反応する脊髄液蛋白質との免疫沈降物を分析すると、上記と同様の高分子成分が認められた。そこで、電気泳動後の本成分をゲルから抽出し、トリプシン処理を行い質量分析計にて測定した。Mascot解析から、本物質はα-1 antitrypsinとして同定できた。今年度、疼痛制御物質候補であるL-PGDSの酵素活性が低下する要因として、α-1 antitrypsinとの会合に起因していることを突き止め、関節炎の合併症であるアミロイド症の新たな原因物質としてL-PGDSを診断に役立てる可能性が得られた。
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Zool. Sci. 25
ページ: 80-87
http://www.rinshoken.or.jp/database/yyama.pdf