1.細胞操作過程における酸素傷害を防止するため、低酸素で細胞操作、細胞培養装置を開発した。酸素濃度2.0%環境下で高精度細胞培養が行えるようになった。本年度は、酸素濃度を変えて線維芽細胞、角膜幹細胞等が混在する細胞群を培養した結果、酸素環境により成育する細胞の割合、また角膜幹細胞の形状が変化することを認めた。本知見は、培養対象毎に物理環境(特に酸素濃度)を厳密に最適化する必要性を示唆している。 2.本年度はフローサイトメトリ(FCM)を用いて精子DNA量を評価した。射精精子のDNA量は大きくばらついていたが、Nycodenz沈降平衡、Percoll沈降速度差遠心、swim upにより精製した精子ではFCMにおけるピーク幅は狭小化し、精製によりDNA量がそろった精子が得られる可能性が示された。 3.本年度はペプチド核酸プローブを用いるFISH法により、染色体末端、すなわちテロメア部位の高精度観察を行った。前年度までのアガロース包埋法に加え、メンブランフィルター上に精子をトラップ、細胞融解して検査を行う方法を試みた。本法はFISHプローブのターゲットへの接近が容易となり、定量性の向上が期待される。半数体である精子は理論上46のシグナルが得られる。FISHのラベル効率が100%には達しないため、シグナルが46以下であることは、染色体数の過少であると特定できないが、46以上である場合は過多である。射精精子のシグナル数はばらついており、染色体過多の精子を認めた。この結果は、精子減数分裂過程における染色体分配精度が必ずしも高くないことを示唆している。前項に示した、FCMにおけるDNA量のバラツキは項目3の結果を支持しており、不妊治療の安全性確保の観点からも詳細な研究が求められる。
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