虚血性心疾患に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)戦略の中核は、新生内膜増殖抑制剤をコーティングした薬剤溶出性ステント(DES)である。しかし現在実用化されているDESは再狭窄に関連する炎症を抑えると同時に、血管壁の正常な修復反応も抑制し血栓リスクを高めることが明らかになり、より生理的な次世代DESが求められている。一方で胎児血管は限られた酸素供給に適応するためアデノシン活性が高く血小板活性も抑制され血栓を作りにくい。この胎児血管の特性を導入した新しいPCIデバイスの開発の可能性を探った。胎齢108±4日の羊胎仔慢性実験モデルにおいて、胎仔大腿動脈にバルーン拡張型ステントで過拡張による障害を与えたのち、内径2.5mm〜4.0mmの金属ステントを留置、同時に母獣大腿動脈およびその分枝にも金属ステントを設置し、実験後28日後に胎児と母獣血管のステント内損失径を比較、さらにA1受容体プロッカーであるテオフィリン局所投与群(TH群)およびアデノシン再取り込みを阻害するジピリダモール局所投与群(DP群)における再狭窄率について統計学的検討した。結果は胎仔血管(n=12:2血管×6頭)のステント内損失面積(28.8±11.4%)は母獣血管(45.4±16.9%; n=10:2血管×5頭)に比較して小さかった(P<0.01)。さらにTH群において、胎児血管の特に3.Omm以内の小口径血管のステント留置後再狭窄率はTH群で高かった(P<0.01)。胎児血管は成人血管に比べ、血管障害後のステント内新生内膜による再狭窄をきたしにくく、この血管特性は成人に比べ高い胎児のアデノシン活性によると考えられ、新しいDESデバイスの開発に繋がる可能性が示唆された。
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