研究概要 |
化学療法を中心とした集学的治療によって治癒させることができた、臨床進行期IV期の進行卵巣癌の臨床検体から樹立した細胞株Opt203を用いて、本症例が治癒しえた細胞生物学的な背景を調べることが本研究の最大の目的である。また、本細胞株を用いて、再現性のある抗癌剤投与による治癒モデルを創出することを最終目的として研究を始めた。 まず、本細胞株のin vitroでの抗癌剤感受性検査では13種類の主な抗癌剤に対すしてWST-1 assayを施行したところ、10薬剤に感受性と判定された。実際に臨床で治癒する際に用いられたパクリタキセル(PTX)とカルボプラチン(CBDCA)はいずれも感受性と判定され、なかでもPTXは臨床的に到達しうる最大血中濃度の1/100の濃度で臨床的に十分達成可能な暴露時間でも十分な感受性を示した。Opt203はPTX高感受性株であることが示された。WST-1 assayが薬剤感受性検査として適切であることを証明するべく、他卵巣癌由来細胞株や代表的な婦人科腫瘍由来細胞株を用いてWST-1 assayを行ったところ、薬剤耐性卵巣癌として有名な明細胞腺癌由来細胞株であるRMG-1,HAC2,Opt46ではPTXに対して耐性を示しており、逆にPTX感受性細胞株として知られる卵巣癌由来A2780や、世界で最初に細胞株として樹立されたHeLa(S3)ではPTX感受性と判定されたが、Opt203のような低濃度での感受性は示さず、Opt203のPTX高感受性が証明されることとなった。Opt203の感受性を確認するため本株に低濃度のPTXを接触させて生き残った人工的PTX耐性亜株Opt203Rを作成し、また、Opt203をsingle cell cloningして遺伝的にほぼ同一な細胞集団からなると考えられる亜株を10種類ほど作成して、PTX感受性検査を行った。結果として、Opt203RはPTX耐性を獲得し、Opt203 clone株は程度の差はあるものの、PTX感受性であった。 同時にヌードマウスBALB/C nu/nu対して本細胞を接種して、heterotransplantationが可能であることを確認し、in vitroでの薬剤投与実験系の予備実験を終了した。
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