研究課題
本研究では、既感染者もしくは初期CIN病変を有する女性に対する治療的ワクチンの開発を目指す。予防的ワクチンでは血清抗体を誘導すれば生殖器粘膜面に漏れ出た中和抗体がHPV感染を阻害することができる。治療的ワクチンでは、HPV感染細胞やCIN細胞を標的にする細胞性免疫(細胞傷害性T cell:cytotoxic T cell[CTL])を子宮頸部粘膜に誘導する必要がある。我々は粘膜免疫を誘導するために乳酸菌に注目した。ヒトの腸管由来の乳酸菌Lactobacillus caseiは、パイエル板などの腸管粘膜リンパ組織への移行性が高いため、乳酸菌に提示された抗原は効率的に腸管粘膜免疫を誘導できる。しかも、ヒトに常在する野生株であるため、安全性が高く反復投与が可能である。生殖器には、粘膜免疫を支配する粘膜リンパ組織は存在せず、腸管の粘膜リンパ組織がその代用をしている。そこで本研究では、HPV蛋白質を提示した乳酸菌ワクチンを作製し、経口投与することによって、腸管を介して子宮頸部に粘膜免疫を誘導しようと考えている。HPV癌蛋白質E7はCIN2-3以上で高率に発現している。そこで、HPV16型E7を表面提示したヒト由来乳酸菌Lactobacillus casei(LacE7群)をC57BL6マウスに0.01-lg/kg/回で、週1回もしくは5回で4週経口投与した。従来の筋注型治療的ワクチンと比較するため16型E7融合蛋白質の筋肉接種(GST-E7群)も行った。粘膜型CTLの評価では、採取困難な子宮頸部上皮内リンパ球の代用として、同じ免疫誘導を獲得できる腸管上皮内リンパ球を用いた。全身性CTLの評価には脾臓リンパ球を用いた。最終経口投与から5週後に腸管上皮内リンパ球と脾臓リンパ球を回収し、CTL反応性E7ペプチド刺激によるIFNgamma産生T cell(E7-CTL)数を測定した(ELISPOT法)。LacE7群のうち、週5回0.01g/kg/回の投与法が最も多い粘膜型E7-CTLを誘導した(週1回1g/kg/回投与の約2倍)。LacE7群では、粘膜型E7-CTLが優位に誘導されていた(全身性E7-CTLの約60倍)。また、LacE7群の方がGST-E7筋注群よりも10倍以上多い粘膜型E7-CTLを誘導した。乳酸菌(LacE7)ワクチン経口投与は、筋注型ワクチンでは得られない高い粘膜型E7-CTL誘導能を示し、安価かつ安全であることから、CIN病変排除を目的とした治療的HPVワクチンとして臨床応用が期待される。
すべて 2007
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