研究概要 |
私たちは、以前の研究で、基底膜の主要な構成成分であるラミニンから精製されたAG73(LQVQLSIR)ペプチドが卵巣がんの腹膜転移を促進するという研究成果を報告した。今回の研究は、その機序を解明することにある。われわれは、invitroの実験系で浮遊増殖性卵巣がん細胞の樹立に成功した。以下TAC3細胞と呼ぶ。今回はその細胞を使用した。その結果AG73ペプチドは、TAC3細胞の増殖能とspheroid形成能を増加させた。その分子生物学的な機序はintegrin s1と syndecan-1を介して各細胞の接着能を上げ、その下流にあるmitogen-activated protein kinase(MAPK)、extracellular signal-related kinase(ERK),とphosphatidylinositol(PI)-3kinase/AKT活性をあげることによりその生物学的行動をとらせた。面白いことに今回の研究で、コントロールペプチドとして使用したAG73T(a scramble peptide)はTAC3のspheroid形成を阻害することがわかった。その機序は、integrin s1とsyndecan-1を介して各細胞の接着能を上げるのを競合的に阻害し、その下流にあるmitogen-activated protein kinase(MAPK)、extracellular signal-related kinase(ERK),とphosphatidylinositol(PI)-3kinase/AKT活性を下げることによりその生物学的行動をとらせた。さらに、MEKの阻害物質であるUO126は、AG73とAG73Tの存在下のほうが、AG73単独の場合よりより効果的に作用し、それはPI3Kの阻害物質であるLY294002でも同様の結果であった。さらに、最も興味深い知見として、AG73単独群のTAC3細胞と、AG73とAG73T共存在群のTAC3細胞では共存在群のTAC3細胞が抗がん剤のシスプラチンに対してより多くのアポトーシスを示すことがわかった。このことは薬剤抵抗性であるshperoidを形成する卵巣がん細胞に対しての新たな治療戦略になる可能性を示唆した。
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