研究概要 |
【目的】Paclitaxelとシスプラチンの併用療法(TJ療法)は,卵巣癌の標準療法として広く認知されてきた.しかし,類内膜癌・漿液性癌では70%程度の初回奏功率を示すものの,粘液性癌・明細胞癌では50%程度であり,組織型による,薬剤感受性の違いが存在することが想定されている。近年,卵巣癌を含めた各種ヒト悪性腫瘍で,type III β-tubulin (TUBB3)の過剰発現が生じており, Paclitaxelの薬剤耐性機構の獲得に重要な役割を担っていることが明らかとなってきた.本研究では,「エピジェネティックマスター遺伝子RESTの不活化は, TUBB3の発現誘導を引き起こし,薬剤耐性機構の形成に関与している」との仮説を立てるに至った.卵巣癌においてがん抑制遺伝子REST (RE-lsilencing factor)の異常を解析し,「RESTの不活化がTUBB3の発現誘導を介して, Paclitaxel耐性の獲得に重要な役割を果す」ことを明らかにする. 【結果】(1)卵巣癌培養細胞株を用いた解析では, REST binding siteへのDNAメチル化はTUBB3の発現を強く抑制した.(2)脱アセチル化阻害剤によるアセチル化の抑制はTUBB3の発現を誘導した.(3)卵巣癌切除組織の免疫染色結果では,過剰発現は有意に予後不良であった.(4)RESTの発現は細胞周期依存性に発現のダイナミクスが観察され,細胞分裂に必須の要因であった.(5)Paclitaxelに対する感受性には細胞質内ヒストン脱アセチル化酵素RDAC6によるα-tubulinの脱アセチル化も強く関連していた. 【意義・重要性】TUBB3の過剰発現は, DNAメチル化,ヒストンアセチル化によって制御されており,そのHDACを標的とした分子標的治療薬の開発は卵巣癌の治療に有用と考えられた.
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