研究概要 |
卵巣癌おけるPaclitaxel感受性に関するtype IIIβ-tubulin(TUBB3)の過剰発現の影響と, その転写制御機構を解析した. 転写制御に関しては, 転写因子RESTの関与とそれに纏わるエピジェネティックな制御機構, 遺伝子の構造異常について解析した. また, 卵巣癌原発巣におけるTUBB3の発現と臨床病理学的事項との相関も検討した. さらに, 卵巣癌以外の悪性腫瘍に関しても解析を行った. 卵巣癌においてTUBB3の過剰発現は, 進行度や転移などの予後不良マーカーと有意に相関した. TUBB3の過剰発現は, REST結合領域のRE-1配列近傍のメチル化状態とヒストン蛋白のアセチル化状態に依存していた. TUBB3過剰発現卵巣癌培養細胞株ではPaclitaxelに対する感受性が低下していた. REST遺伝子はいずれの細胞株でも安定的に発現しており, 構造異常も認められず, TUBB3の発現に関して直接的関与は認めなかった. REST inducible cloneによるdominant negative cloneでは, RESTはMeCP2ならびにSim3等の巨大なepigenetic regulator bodyを形成し, TUBB3の発現を細胞周期依存性に制御している可能性が示唆された. 卵巣癌におけるTUBB3の異常発現は,その発現制御因子である転写因子RESTの結合領域に生じるエピジェネティックな機構の破綻による可能性が示唆された. 悪性黒色腫では, TUBB3過剰発現株では卵巣癌と同様にPaclitaxelに対して抵抗性を持つものの, 予後は逆に良好であった. このことはTUBB3の過剰発現は腫瘍によって異なる生物学的特性を付与すると考えられた. 卵巣癌のPaclitaxelを用いた治療において, TUBB3の免疫組織学的解析は重要な情報である. さらに, Paclitaxelを主体とした化学療法施行に際して, エピジェネティックな腫瘍環境を考慮する必要があると考えられた.
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