H20年度は、MSIと体癌細胞の特性、特に黄体ホルモン感受性を規定する分子の検索を行うため、当科にて子宮体癌113例(異型増殖症47例、Ia期相当G1腺癌62例、G2腺癌4例)を対象として妊孕性温存療法として高用量黄体ホルモン(MPA)療法を行った臨床データを基に、病変消失率、無再発生存率、再発に関与する危険因子の統計学的に解析した。病変消失率は異型増殖症で95.7%、G1腺癌で86.9%、と好成績を示したが、再発率はそれぞれ50%、48%と高値であった。MPA療法後妊娠例は既婚者例の44%で認められ、子宮内再発後の反復MPA治療後においても8例の妊娠例が認められ、反復治療の有用性が強く示唆された。しかしながら、MPA治療中に2例が子宮内病変が進行し(1例が異型増殖症からG1腺癌へ、1例がG1からG3腺癌へ)、子宮外病変が出現した例は7例(3例は転移、4例は卵巣癌、腹膜癌の重複癌)に認められ、特に子宮内膜症合併例(卵巣内膜症性嚢胞内の卵巣癌重複発生2例と骨盤腔内膜症病変における腺癌発生2例)では、内膜症病変の癌化が原因と考えられた。子宮外病変がMPA治療例の6.2%に認められたことが100例以上に及ぶ症例検討において初めて報告された(学会発表)。また、G2腺癌に対するMPA療法の結果、4例とも病変は一旦消失したが、病変消失に要した日数は390日であり、G1例の112日、異型増殖症例の59日に比較して有意に延長しており、また、再発までの日数も有意に短縮していることが初めて確認された(投稿準備中)。また、黄体ホルモンへの感受性を規定する因子として、近親2度以内のhereditary non-polyposis colorectal cancer (HNPCC)関連腫瘍の家系内集積性と、DNAミスマッチ修復酵素遺伝子の一つであるMLH1蛋白の関与が多変量解析にて示唆された(投稿準備中)。
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