(目的)これまで閉経後ホルモン療法(HT)が心血管疾患(CVD)リスクを増加させることが報告され、エストロゲンに併用する酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)が血管内皮機能や血中脂質に悪影響を与えることを明らかにしてきた。今回の研究目的はMPAの有するこれらの悪影響の詳細な機序について検討し、CVDリスクの低下が可能なHTの確立を目指すととにある。(方法)更年期障害症状を有する同意を得た閉経後や卵巣摘出後女性を対象とし、結合型エストロゲン(CEE)単独投与群とCEE+MPA併用群に分別し、3ヶ月間の投与前後で、(1)血管炎症マーカーとして高感度CRP、接着因子のICAM-1、E-selectinを測定した。(2)ホモシステイン濃度(Hct)を測定した。(3)内皮機能の指標として上腕動脈の血管拡張反応(FMD)を計測するとともにNO濃度の指標として血中NO2/NO3濃度を測定した。(4)内因性NOS inhibitorであるasymmetrical dimethylarginine(ADMA)濃度を測定した。(結果)(1)高感度CRPはCEE群で上昇するが、MPA併用群では低下する傾向にあった。ICAM-1、E-selectinはCEE群で変動はなかったがMPA併用群で低下した。(2)HctはCEE群、MPA併用群いずれも変化しなかった。(3)FMDおよびNO2/NO3濃度はCEE群で上昇するが、MPA併用群では差はなかった。(4)ADMAはCEE群、MPA併用群いずれも同様の有意な低下を示した。(結論)MPA併用で内皮機能とNO濃度は低下することからMPAがNO産生に抑制的に作用することが示された。しかし、MPA併用で内皮機能と密接に関連する高感度CRPやICAM-1、E-selectinはむしろ低下し、Hctは変化しないことから、MPAの内皮抑制作用に血管炎症やHctは関連が少ないと考えられた。またMPAはエストロゲンで低下したADMA濃度にも影響しないことから、直接NOSに作用して内皮に抑制的に作用する可能性が示唆された。MPAの脂質や内皮への悪影響は合成型プロゲスチン製剤の有するテストステロン作用による可能性が報告されている。今後はテストステロン作用の少ない黄体ホルモンで検討する必要がある。
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