本研究では、人工的電気刺激聴覚、特に、人工内耳聴覚を模擬した「周波数変換帯域雑音音声」を作成し、音声の情報伝達改善に伴い観察される脳の適応過程、音楽認知改善のために必要な刺激条件を心理音響学的手法や高次脳機能画像を用いて健聴者を対象に検討する。 本年は、東北大学電気通信研究所の現有設備(視聴覚刺激作成システム)を用いて、本研究のための視聴覚刺激を作成した。研究計画では、単音節、単語、文章、音楽刺激を作成して、検討する予定であったが、被験者数に制限があることを考慮し、単語刺激(親密度の比較的高い4語単語)での検討と音楽重野の作成を先行して実施した。 対象は31名の正常成人ボランティア。周波数劣化雑音音声に対する聞き取りが、トレーニング方法によってどのように影響を受けるかを検討した。その結果、言葉の聴覚情報のみを用いて聞き取りトレーニングを行うより、言葉の視覚情報を同時に提示して行うほうが、劣化雑音音声に対する聞き取りが有意に改善することが示唆された。人工内耳のリハビリテーションでは、視覚に頼ることが、新たな人工内耳音声に対する聞き取り改善に悪影響を及ぼすのではないかという危惧をもつ考えもあるが、今回の結果は、少なくとも、言語習得後難聴に対する人工内耳のリハビリテーションにおいては、視覚情報を同時時提示するほうが、より早く、よりよい聞き取り改善が実現できることを、示唆しているものと考えられた。 次年度は、単語刺激を用いた本年度の結果に関する脳内メカニズムの検討のための刺激作成と予備実験、音楽刺激に対する検討を行う予定。
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