本研究では、人工的電気刺激聴覚、特に、人工内耳聴覚を模擬した「周波数変換帯域雑音音声」を作成し、音声の情報伝達改善に伴い観察される脳の適応過程、音楽認知改善のために必要な刺激条件を健聴者を対象に検討する。本年度は3年計画の2年目に当たる。 昨年度は、高周波数領域に圧縮した周波数劣化雑音音声に対する聞き取りの改善が、トレーニング方法によって異なること、すなわち、言葉の聴覚情報のみを用いて聞き取りトレーニングを行うより、言葉の視覚情報を同時に提示して行うほうが、劣化雑音音声に対する聞き取りが有意に改善することを示した。 そこで、本年度は言葉の聞き取りが改善しえる音声側の条件を検討すべく、周波数変換帯域雑音音声の作成条件を変化させ、その影響を観察した。実験は継続中で、結論は得られていないが、抽出した音声包絡情報を埋め込まれる側の雑音帯域の影響が大きく、特に高周波帯域の音声情報が重要である可能性が示唆されている。来年度、さらに検討を重ね、より良い音声認識実現に必要な、音声側の条件を明らかにする。本研究で得られる知見は、人工内耳のマッピングやリハビリテーションの改良に貢献する。 一方、脳磁図による検討を予定していた劣化雑音音声刺激による脳機能画像の検討は、広南病院の脳磁図システムの変更により、技術的に困難となった。そのため、音声刺激に代わり音声知覚の重要な要素である時間情報とも深く関係した振幅変調音に対する大脳皮質反応計測を計画し、新たに刺激記録システムを構築し、聴性誘発脳磁界の予備的計測を行った。 本刺激による聴性誘発反応により、音声時間情報と関連する聴覚脳を客観的に評価できることが期待され、その臨床的重要性は高い。来年度来年度、さらに検討を重ね、言葉の聴取能に関連した聴覚機能側の条件を明らかにする。
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