花粉症は一旦発症すると毎年症状が現れ、自然治癒することがほとんど無い疾患である。免疫学的記憶維持の原理は抗原記憶細胞(メモリー細胞)の形成と維持にあるが、この維持に関するメカニズムは長命なメモリー細胞が長期間生き残る、あるいはクローン継代されると考えられている。 しかし、これまでの報告は感染免疫を中心に免疫記憶の維持機構の検討がなされたため、抗体産生と深く係わるヘルパーT細胞(Th)での検討はほとんどなされていない。この研究では花粉症のメジャーなThエピトープを認識するアレルゲン特異的メモリーThクローンの検討を中心に、通年でのクローンの維持の実態、さらに免疫治療を行っている患者からはThクローンの中のサイトカイン産生パターン比の変化を検討するとによって、「なぜアレルゲンは記憶され、記憶は維持され、寛容しないのか」といった点に迫る。 研究期間内に日本人スギ花粉症患者におけるスギ特異的メモリーTh2の数量的な年間変動を検討した。Th2メモリーの撰択的刺激には日本人のHLAバリエーションを考慮して殆どの日本人スギ花粉症患者が認識するHLAクラス2エピトープを使用する。このクラス2エピトープに特異的に反応するThクローンサイズの年間変動を測定した。その結果スギ特異的メモリーTh2は年間変動し、花粉飛散前1月が最低であった。しかし、メモリーの6-7割が1月にも維持されていることが判明した。一方、通年性アレルギー患者のDerp特異的クローンサイズは年間で変動しなかった。 この研究によって、確かにスギ抗原特異的メモリーThクローンサイズの半減期はおよそ1年~2年でめり、クローンサイズ維持には抗原の再曝露が必要であることが判明した。このことは、有効な免疫介入を行うことによっておよそ2年以上かけることによってヒトのアレルゲンに対する免疫記憶機構に介入できる可能性を示唆しているものと考える。
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