研究概要 |
ミッドカイン(MK)とプレイオトロフィン(PTN)遺伝子double knockout (DKO)マウスにおいて蝸牛蓋膜の非コラーゲン蛋白であるβ-tectorinの発現の消失と聴力閾値上昇を確認している。一方、MK,PTNの発現はWild-type (WT)マウスの血管条にも認められたことから、今回血管条に焦点をしぼって遺伝子欠損マウスにおける障害を解析した。生後8週齢のWild-type (WT), MK knockout(MKKO)、PTN knockout(PTNKO)、double knockout(DKO)の各マウスを用い、ABR測定、径0.5mmのマウス用レーザードップラープローブにて蝸牛血流測定、内耳を光顕および透過電顕にて形態学的な変化の有無を観察した。 MKKOおよびPTNKOマウスの聴力はWTに比べ25dBから30dBの閾値上昇を認めたが、PTNKOマウスでより閾値が高い傾向を認めた。DKOマウスではさらに高い閾値上昇を全周波数で認めた。蝸牛血流は4群において有意な差は認めなかった。光顕的観察ではMKKO、PTNKOおよびDKOマウスの血管条に明らかな変化は見られなかった。しかし透過電顕による観察では、中間細胞領域の空胞化変性をDKOマウスにて認めた。 MKとPTNは相補的な役割を果たしているが、Vivoでのこれらの相補的役割はまだ解明されていない。PTNはメラノーマ細胞に強く発現し、メラノーマの転移において血管新生促進因子として関与している事が報告されている。血管条中間細胞はメラニンを含みメラノサイトと考えられており、PTNの発現が血管条に確認されたことは大変興味深く、相補的な役割を担っているとされるMKとPTNのDKOマウスで中間細胞領域の形態的変化を認めた事は、中間細胞がメラノサイトである事を示す所見といえる。さらに、PTNKOマウスの聴力閾値がMKKOマウスの閾値より高値である結果は、PTNが血管条においてMKより主導的な役割を果たしていることをうかがわせた。
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