言語修得期前に両側聾となった小児に対して人工内耳埋め込み術が行われており、当院においても多数の手術が施行されている。人工内耳は手術手技だけではなく、電気刺激強度の調節(フィッティング)を含めた術後のフォローアップが非常に重要となっており、当科でも熟練した言語聴覚師らが診療に当たっている。一方、近年人工内耳手術が低年齢化する傾向にあり、人工内耳による音刺激時に実際に音が聞こえているかの評価が難しい症例が増え、客観的な聴覚検査方法の確立が求められている。今回我々は、人工内耳を介して音を聴いた際の大脳聴覚野の脳活動をNIRS(近赤外分光法)を用いて検査することで、小児における客観的な聴覚検査法を確立すると共に、大脳聴覚野の発達過程を解析することを目的とした。 平成20年度においては、昨年度に作成したプロトコールを用いて、当科で人工内耳手術を施行した先天性難聴の小児における大脳聴覚野の活動を世界ではじめてNIRS装置で測定した。特に、術後はじめて人工内耳を使用する「音入れ」時に測定を行うことで、人工内耳のフィッティングに有用となる情報が得られないか検討を行った。音刺激時に大脳側頭葉付近でヘモグロビン濃度の変化が認められ、音刺激による聴覚野の活動と考えられた。音入れ後にもNIRS測定を施行しており、解析を行っている。NIRSは小児が覚醒した状態でも測定できることが利点であるが、被験者によっては頭部を激しく動かすなど検査の続行が困難な場合があり、被験者に加速度計を取り付けることで激しい体動時のデータを棄却するように工夫した。現在、得られたデータをまとめ、英語論文として発表できるよう準備を行いつつある。
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