メニエール病の病理組織学的特徴は内リンパ水腫であるが、その発生機序に関してはいまだ不明な点が多い。これまでにわれわれは、抗利尿ホルモンがメニエール病の発症に深く関与していることを報告してきた。今回は、ラットを用いて、抗利尿ホルモンが内耳液の産生部位である血管条に及ぼす影響を検討するとともに、抗利尿ホルモンの2型受容体(V2R)の阻害剤であるOPC-31260の効果を検討した。 方法は、ラットに抗利尿ホルモンを皮下注し、その後の血管条の経時的な形態変化を電子顕微鏡を用いて観察した。結果は、血管条内の中間細胞が浮腫状変化をきた。この変化は時間依存性であり、抗利尿ホルモン投与後20分にピークを有していた。つぎに、OPC-31260を経口投与した後に抗利尿ホルモンを投与した場合には、血管条の組織学的変化は認めなかった。 この結果は、抗利尿ホルモンにより血管条内に水の流入が誘発され、さらにこの水が内リンパ腔内に輸送されることにより、メニエール病の病態である内リンパ水腫が形成されることを示唆している。つぎに、OPC-31260を前投与することにより、抗利尿ホルモンによる血管条の組織変化が抑制されることは、血管条内への水の流入は抗利尿ホルモンのV2効果によると考えられるとともに、OPC-31260がメニエール病の治療薬としての可能性を有していることを示唆する結果と考える。
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