大脳皮質の味覚野と嗅覚野は嗅溝を挟んで隣り合い、両感覚野の相互連絡の可能性を推測させる。膜電位光感受性色素による脳スライス標本で電気刺激に対する興奮伝播を調べた平成19年度の実験結果から、ニオイ情報処理部位としてそれほど関心をもたれず、てんかんの発生源として考えられていた嗅覚野深層の傍梨状核が、味覚野と嗅覚野の情報の収束の領域として重要な役割をもつことが示唆された。平成20年度は、傍梨状核のこの機能をさらに確認する目的で、自然刺激に対する味覚野、嗅覚野および傍梨状核領域のc-Fosタンパクの発現を免疫組織学的に調査した。リンゴによる味とニオイの自然刺激に対し、嗅覚野、傍梨状核、前障、島皮質および味覚野で多数のFos陽性細胞の発現が認められた。また、刺激を与えなかった対照群では、Fos陽性細胞の発現は極めて少数であった。これらの結果から、嗅覚野から入力を受ける傍梨状核が、次のニオイ情報処理の場として役割を果たしているのみならず、味覚野からの味情報も収束する領域として重要な役割をもつことがさらに確実なものとなった。一方、ニオイ刺激(リンゴ、バナナ、オレンジ、糞等)に対する、嗅覚野(後部梨状皮質)で内因性光信号応答が記録された。光応答は、後部梨状皮質のある領域にのみ出現せずに5〜8箇所の小領域に分散して出現したが、動物間でその小領域の一致は見られなかった。また、ニオイ刺激に対し味覚野に光応答が出現する例も観察された。これは「味わう」という複合感覚の機序解明に興味深い結果と考えられる。
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