本年度は、産業技術総合研究所開発の精密鼻腔モデルを用い、平成19年度に行った同じ対象者に対して、内視鏡、鉗子、ドリル類の扱い方、操作時間、骨削開の操作、またその際にかかる圧荷重などの計測を行なうと同時に、手術操作中における視線停留点・軌跡分析および停留点時間分析を測定し、経験による差、学習効果に伴う差についても検討した。 その結果、内視鏡、鉗子、ドリル類の扱い方は回数を経るごとに上達し、操作時間も減少した。しかしその際にかかる圧荷重をみると必ずしも回数のみでは改善されず、対象者自身の器用さ、手術に対する感性が関与している傾向がみられた。また手術操作中における視線停留点・軌跡分析および停留点時間分析では、操作に慣れてくると1点に集中する傾向がみられた。 以上のことから内視鏡手技の技能には個人差、能力差のあることが明らかとなった。その大きな要因は、中枢におけるHand-Eye coordination (visuomotor skill)のメカニズムが関係し、特に脳幹部と小脳に分布する運動・感覚神経相関との関連性が考えられた。この中枢におけるメカニズム解明のために解剖学との共同研究で、neocortico-pont-cerebellar projectionに関連する神経線維の局在と分布に関する基礎研究を行い、その一部を32^<nd> Midwinter Meeting for the Association for Research in Otolaryngologyで発表した。 今回は手術手技の正しい教育プログラムまで完成させることはできなかったが、今後、このトレーニングシステムを有効に活用し、対象者の性格や能力も加味したステップ形式のプログラムと評価を完成できたらと考えている。また基礎的研究として手術手技の中枢制御機構の解明も更に進めていきたい。
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