研究概要 |
ヒトにおいて半規管内で結石などの浮遊物が生じることにより典型的な良性発作性頭位性めまいが発症することが臨床的には明らかとなっている。耳石の迷入であれ、半規管内で浮遊物が析出するのであれ、結石の主体と考えられる炭酸カルシウムの半規管内での代謝を明らかにする必要がある。炭酸カルシウムの溶解度はpHと密接に結びついている。一方、内リンパ液はたんぱく質が少ないため、主な緩衝系として炭酸ガス、重炭酸イオン系が働いている可能性が高い。そこで内リンパのカルシウムイオン濃度とpHの両者を検討することが必要と考えている。 イオン電極法を用いた半規管内リンパのpHとCaの測定法の確立のため測定手技の改良を行い,in vivoでの安定した結果を得るための検討を続けた。前庭に対しては外側からアプローチのうえで骨迷路を削開し半規管内リンパへ電極を刺入する方法をとっている。半規管内リンパ腔は細いため、骨迷路の削開、電極の刺入角度により結果が一定とならない。現在はできるだけ膨大部に近い部位を開窓する方法を模索してきた。 半規管内電位は当初では数mV程度であったが、検討を続けるうちに20mV程度を記録する場合も見られた。カルシウムイオンの濃度を半規管内電位による電気化学勾配に従うと考えるならば、数mVと20mVの場合では外液のカルシウム濃度から考えると1.0×10-3Mから3.0×10-3Mの濃度差が生じる。半規管での炭酸ガス分圧、pH、半規管内電位のそれぞれで変動が生じた場合、条件によっては炭酸カルシウムが析出する可能性は否定できない。今後も検討が必要である。
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