ヒト頭頸部扁平上皮組織を用いて、アラキドン酸のシクロシキゲナーゼ(COX)系の代謝について検討した。免疫組織学的検討では、COX-2は正常組織あるいはdysplasiaと比較して癌組織に強い発現が認められた。癌組織のなかでは、間質の細胞ではなく癌細胞そのものに強い発現を認めた。それに対してCOX-1の発現も見られたが特徴的な分布を認めなかった。さらにCOXの下流酵素であるプロスタグランジン合成酵素(mPGES)について検討を行ったところ、mPGESに強い発現が認められた。しかもその分布はCOX-2と類似、すなわち癌細胞、特にその核周囲に強い発現を認め、頭頸部扁平上皮組織ではCOX-2とPGESの連関が示唆された。それらと臨床データを比較検討したが、TNM分類のうちいずれの要素に関しても有意な差が見られなかったが、分化度の違いでは高分化癌の方がCOXおよびmPGESの発現が強い傾向にあった。RT-PCRによる検討では、TNM分類やリンパ節転移の有無で、COX-2とPGESの発現に差は無かったが、分化度について高分化癌でPGESの発現が有意に亢進していた。また、PGE2の受容体(EP1-4)の発現について検討を行ったところ、PGE_2の4種類の受容体すべてにおいて、癌細胞に発現がみられた。特にEP3およびEP4の発現が、EP1、EP2と比較して強い発現が認められた。COX-2阻害剤が癌予防の薬剤として注目されているが、最近心血管系の副作用が指摘された。そこでCOXより下流である、PGESあるいはEPの阻害剤の開発が注目される。
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