本年度も高度難聴小児の脳機能計測を継続した。初回の検査後に人工内耳埋め込み術を受けたがその後の言語発達が停滞している小児例で、再度計測を行った。この例では視覚言語刺激による聴覚連合野の賦活は認められず、言語発達停滞の原因は視覚との拮抗によるものではないと推測された。また、言語習得前失聴小児の年齢と脳代謝の相関を観察すると、頭頂葉の代謝が年齢と共に減少する傾向が見られ、先天性高度難聴小児では聴覚の活用が進むことで頭頂葉視覚連合野への依存が軽減することが推測される。また、われわれの研究プロトコルを用いて支援している他の研究施設の症例では、先天性高度難聴小児で聴覚活用が不十分な例において視覚的言語刺激によって一次聴覚野が賦活される場合があることが明らかになり、反対側聴覚野の活用を期待して人工内耳手術が同側の蝸牛に行われた。この事例は人工内耳手術適応と術側を検討する上で脳機能検査が寄与できることを示唆する。さらに、広汎性発達障害を有する高度難聴小児の人工内耳術後経過の検討を行ったところ、術後に言語発達が改善する例と改善しない例があり、高度難聴小児における言語発達の阻害には高度難聴による2次的なものと、当初から障害がある場合とがあるものと考えられた。これらが脳内の神経機構の機能異常として脳機能画像で観察することができるかどうかは極めて興味深い課題である。次年度も高度難聴小児の言語発達について、脳機能画像と生理学的機能検査を詳細に検討し、今後の臨床応用にどのように活用できるか考察を進める。
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