研究概要 |
網膜血管の傷害される疾患の病態として、血管透過性亢進、血管新生があり、その病態はサイトカインネットワークの作用により制御される。また、その制御のための薬剤が検討されている。生体眼での状態に似た環境での細胞の制御メカニズムを検証するために、硝子体由来細胞の存在下で炎症性サイトカインによる刺激をした網膜血管内皮細胞の細胞生物学的な変化を検討した。ヒト網膜血管内皮細胞とブタ硝子体由来細胞の共培養系を用いた。増殖性網膜硝子体疾患の硝子体中に発現しているサイトカイン(IL-1α、IL-1β、IL-6、TNFα、VEGF)による血管内皮細胞の増殖制御、及び薬剤(ベバシズマブ(抗VEGF薬)、フェノフブリン酸、デキサメタゾン)の効果を検討した。細胞増殖はMTTアッセイにて観察した。硝子体由来細胞を共培養することで、網膜血管内皮細胞はIL-α、IL-1β、IL-6、TNFα、VEGFにより増殖が促進された。ベバシズマブは硝子体細胞のない状態ではVEGFによる増殖作用を10μg/mlの濃度で抑制することが出来たが、硝子体細胞の存在下では100μg/ml必要とされた。IL-1α、IL-1β、TNFα、VEGFを投与した際ベバシズマブを100μg/ml投与すると網膜血管内皮細胞の増殖抑制を認めた。フェノフィブリン酸は、硝子体細胞のない状態ではIL-1βとVEGFによる増殖作用を10μg/mlの濃度で抑制することが出来たが、硝子体細胞の存在下ではこの濃度で抑制されなかった。デキサメタゾンを50ml/ml加えることで、IL-1α, IL-1β, IL-6, VEGFによる増殖作用を抑制したが、硝子体細胞と共培養することで、増殖抑制効果は減少した。硝子体細胞が存在することで、ベバシズマブ、フェノフィブリン酸、デキサメタゾンによる血管内皮細胞の増殖抑制効果を減少させることが認められたことから、生体内では治療薬の効果がin vitroに比較して減少する可能性も示唆された。今後の治療薬開発に際して注意すべきと考える。
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