研究概要 |
増殖糖尿病網膜症の病因には血管内皮増殖因子(VEGF)が関与している。VEGFはHIF転写因子によって転写が促進されること,さらにHIF発現はmTORによって制御されていることが知られている。最近,前骨髄球性白血病腫瘍抑制因子(PML)がmTOR活性を阻害して転写因子HIFの発現低下,血管新生の抑制を引き起こすことが報告された。このことから,増殖糖尿病網膜症の増殖膜など血管新生が促進されている組織ではHIFの増加とともにPMLの発現低下が予想される。今回,増殖糖尿病網膜症や特発性黄斑上膜などの血管新生を伴わない疾患の増殖膜を採取し,HIF,PMLの発現をmRNAレベル,蛋白レベルで検索した。 増殖糖尿病網膜症は19検体中13検体(68%)と高率にHIF-1 mRNAが検出されたのに対して,特発性黄斑上膜では12検体中2検体(17%)にしか検出されず,両群の検出率には有意差が認められた(P=0.0050)。また,humanとmouse両種のPMLmRNAを検出することが可能なPMLプライマーを用いてマウスwholeretinaでRT-PCRを行ったところ,PMLの発現が確認でき,PMLが眼内においてなんらかの役割を担っている可能性が推測された。一方,同条件でヒト増殖糖尿病網膜症症例の増殖膜検体7例もRT-PCRを行ったがPMLの発現が確認できなかった。以上のことから増殖糖尿病網膜症においてはHIFの発現亢進とPMLの発現低下が起こっている可能性がある。今後,手術検体を増やしてPML発現の検討を進めてゆく予定である。 これまでPMLの眼内での発現は報告がなく,我々の研究結果は,将来的にPMLの増殖糖尿病網膜症の血管新生を抑制する治療薬としての可能性を模索する第一歩となると思われる。
|