正常な臓器や組織に障害をきたした際、その失われた機能を取り戻すため、様々な臓器・組織の再生が研究されている。なかでも網膜を含む神経組織再生の試みは近年注目されているものの、実際の臨床応用に関しては進んでいない。神経組織に関してはその構造の複雑さ故に、未だ、生体内での機能を伴った神経組織の再生の報告はほとんどない。実際、in vitroでの知見が必ずしもin vivoでは、実現できていない。その理由の一つとして、胚性幹細胞(ES細胞)を組織再生に利用した場合、しばしば奇形腫として正常組織まで破壊して腫瘍性増殖をきたすことがあげられる。ES細胞移植後の腫瘍発生を抑制するため、自殺遺伝子thymidine kinaseをES細胞の未分化維持に関わるOCT-4遺伝子プロモーター下流に挿入したES細胞を網膜移植に使用し、移植後、網膜に定着した時点でganciclovirを投与して未分化状態の腫瘍性ES細胞を除去し、より純粋な神経組織成分からなる網膜の再生を最終目的として研究を進めることとした。 平成19年度はOCT-4遺伝子プロモーター下流に自殺遺伝子thymidine kinaseを挿入したES細胞(OCT-TK-ES細胞)を3次元培養し、その後、ganciclovir投与により選択的に未分化ES細胞の増殖を抑制し、アポトーシスあるいは分化誘導について、遺伝子発現、神経分化蛋白発現の変化を検索した。3次元培養されたES細胞は、ganciclovir投与により未分化細胞成分のみが除去され、神経分化を示すことが示された。
|