研究概要 |
1.上斜筋麻痺の原因遺伝子の検索解析:3家系(親子3組6人、父と娘1組、母と娘2組)の先天上斜筋麻痺患者6名を対象に末梢血を採取して核DNAを抽出し、ARIX, PHOX2B, KIF21A遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応による増幅と塩基配列の決定を試みた。その結果、ARIX遺伝子のエクソン2で親子2組(家系1と3)の4人に153G>Aを、PHOX2B遺伝子のエクソン3で家系1の父と家系3の娘2人にA1121Cの1塩基変化を認めた。さらに家系2の娘にはPHOX2B遺伝子のエクソン3に15塩基欠損をヘテロ接合で認めた。KIF21A遺伝子は、全員に変異を認めなかった。これらの結果はARIX153G>Aの遺伝子変異が先天上斜筋麻痺の遺伝的危険因子であることを示していると推察した。2.上斜筋麻痺の生理機能学的解析:上斜筋麻痺の有用な診断法とされているBielschowsky頭部傾斜現象の成り立ちを検討するために、17名の先天上斜筋麻痺と14名の正常被験者を対象に患側上斜筋の筋腹サイズとBielschowsky頭部傾斜現象の関係を検討した。超高磁場MRIを用いて上斜筋と下斜筋を撮像し、最大筋腹断面積を計測した。対象者の患側上斜筋断面積値は対照者、および対象者の健眼側に比べて有意に小さい断面積値を示した。しかし、下斜筋断面積値については、対象者の患側、健側ともに有意な差はなく、しかも正常被験者のそれと比較しても有意な差はみられなかった。さらに、患側上斜筋の最大断面積値とBielschowsky頭部傾斜試験の間に有意な相関はなかった。これらの結果と著者らの先行研究(Kono R, Demer JL. Magnetic resonance imaging of the functionalanatomy of the inferior oblique muscle in superior oblique palsy. Ophthalmology, 2003; 110: 1219-1229)の結果を総合すると、上斜筋麻痺の有用な診断法とされるBielshowsky頭部傾斜試験は,上斜筋機能を特異的に反映する検査ではないと結論される。
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