研究概要 |
1. 上斜筋麻痺の静的眼球反対回旋の解析研究:頭部傾斜で誘発される静的眼球反対回旋(static ocular counterrolling, s-OCRと略)の振幅とBielschowsky頭部傾斜試験の関係を調べることを目的に、正常被験者11名、早期発症、および代償不全型上斜筋麻痺133名を対象に、頭部搭載型の眼球運動計測システムを用いて、撮影した角膜反射像と虹彩紋理を結ぶ直線の形成する角度から頭部傾斜で誘発される静的眼球反対回旋運動を計測した。その結果、患眼の患側頭部傾斜時のs-OCRの振幅の平均値(標準偏差値)は、健側頭部傾斜のそれに比して有意に低値を示した[患側傾斜4.4(2.1°)vs.健側傾斜7.3(2.7°),p<0.0001]。また、それは正常被験者のそれと比較しても低値を示した[7.3(1.7°),p<0.0001]。患側頭部傾斜時の患眼上斜視とs-OCRの間には有意な関連はなかったが(r2=0.02,p=0.4061)、患側頭部傾斜と正面位における上下偏位の差と患側傾斜時のs-OCRの振幅の間には有意な相関を認めた(r2=0.20,p=0.01)。これらの解析結果から、患眼上斜筋の機能は、Bielschowsky頭部傾斜現象ではなく、患側頭部傾斜と正面位の上下偏位の差に反映されるということを念頭に、Bielschowsky頭部傾斜試験を行うべきであると結論した。2. 上斜筋麻痺の3次元眼球運動解析:測定可動域の広いSynoptometer(Oculus, Germany)を用いて、垂直方向30度の広い範囲で視線を移動させて回旋偏位を計測することを計画し、垂直眼位に対する回旋偏位の割合からListing平面の傾きを算出する方法を利用することで、上斜筋麻痺のListing平面、さらには下斜筋減弱手術のListing平面に対する影響を解析した。その結果、上斜筋麻痺のListing平面は視線に垂直ではなく、傾斜することを認めた。さらに、下斜筋減弱手術、上斜筋増強手術、上下直筋手術の3種類の手術のListing平面に対する影響を解析した結果、先天上斜筋麻痺と正常被験者の垂直眼位に対する回旋偏位の割合を回帰させたところ、正常被検者の回帰直線の傾きは限りなく0に近いが、上斜筋麻痺では右下がりの傾斜を呈し、上方(下方)に視線を移動するに従って外方回旋が大きく(小さく)ななった。この結果から、先天上斜筋麻痺では正常被験者と異なりListing平面が鼻側へ傾斜することを検出した。
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