角膜上皮細胞の特異機能におけるエピジェネティック制御および機能的RNAの関与について以下の検討を加えた。まずbisulfited genomic DNAが増幅できるかどうかについてであるが、様々な反応条件を検討したもののレーザーマイクロキャプチャーで得られるナノグラム程度のサンプルに対応することは困難であった。そこでなるべく多くのサンプルを集めるようにしたところ、限られた領域ではあるがケラチン12遺伝子プロモーターの解析が可能であった。その結果角膜輪部基底細胞のケラチン12遺伝子のゲノムメチル化率は高い事がわかり、角膜上皮細胞がステムセルから分化する過程で脱メチル化が生じていることが示唆された。次にmiRNAの角膜上皮細胞における生理機能を調べるためmiRNAのクローニングを行った。角膜上皮細胞の不死化細胞を培養してtotal RNAを抽出し、miRNAのフラクションを得た。逆転写したのちPCRで増幅してプラスミドに組み込み大腸菌に形質転換した。得られたコロニーのシーケンス解析を行い、配列をさらに解析して既に登録されているmiRNAとの比較を行ったところ、角膜上皮細胞ではmiR-21が圧倒的に優位に発現していることがわかった。miRNAはアポトーシスを阻害して細胞増殖を促進するとの報告があるため、様々な阻害剤を用いてmiR-21の上流シグナルを調べたところ、WortmanineとLY294002にてmiR-21の発現が抑制された。このことからmiR-21はPI3K-Aktのシグナルによって抑制的に制御されていることが示唆された。またmiR-21のプロモーター領域に対しルシフェラーゼアッセイを行ったところ、転写開始点の上流800塩基までは全く活性がなかったが、800塩基から1000塩基の間で転写活性が見られ、このあたりに転写調節因子の結合配列があるのではないかと推察された。
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