神経発生期の網膜神経層において、細胞内カルシウムストアを介したカルシウムシグナル、即ちGタンパク共役型受容体の活性化による細胞内カルシウムストアからのカルシウムイオンの放出(カルシウム動員)及びストアの枯渇により活性化される細胞外からのカルシウムイオンの流入(容量性カルシウム流入)は、細胞増殖期の神経上皮細胞、中でも細胞周期上のS期(DNA合成期)の細胞で顕著に生じ、分化した細胞(網膜神経節細胞)では痕跡的であること、イオノトロピック型受容体の活性化による細胞外からのカルシウムイオンの流入は、網膜神経細胞の分化が進行した後に認められることを報告している。昨年度は、網膜神経上皮細胞の細胞増殖・細胞分化効果の評価方法を確立した6平成20年度はこれを用いて、ATP受容体の活性化による細胞増殖・細胞分化への影響を検討した。細胞増殖効果については、網膜神経層の器官培養液にATPを添加してDNA合成量を測定したところ、DNA合成の促進が認められた。しかしその促進効果は、Gタンパク共役型受容体及びイオノトロピック型受容体の両者を活性化させるATPでは認められるが、カルシウム測光の結果から予想される傾向に反して、Gタンパク共役型ATP受容体のみを活性化させるUTPではDNA合成促進効果は認めらなかった。以上の結果は神経上皮細胞の増殖制御に、Gタンパク共役型受容体のみならずイオノトロピック型受容体との機能的連関がさらに必要である可能性を示唆している。引き続き現在は、細胞増殖に関与するATP受容体のサブタイプの同定を試みている。また細胞増殖と表裏一体である細胞分化についても、その効果の評価方法を確立済みであるので、ATP受容体の活性化による細胞分化への影響についても、サブタイプ毎に検討することが今後の課題である。
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