研究概要 |
肝細胞増殖因子トランスジェニックマウス(HGFtg)を癌抑制遺伝子であるp16Ink4aとp19Arfを同時にノックアウトしたマウスと交配して作成されたHGFの過剰発現を伴ったInk4a/Arfノックアウトマウス(ダブルマウス)(HGFtg+Ink4a/Arf-/-)は高率に横紋筋肉腫(Rhabdomyosarcoma:RMS)を発生することが知られている。我々はRMSの発生機序をさらに詳しく調べるため,HGFtgとp19Arfノックアウトマウス(HGFtg+p19-/-),HGFtgとp16Ink4aノックアウトマウス(HGFtg+p16-/-),HGFtgとp53ノックアウトマウス(HGFtg+p53-/-)の各々のダブルマウスを作成し繁殖させた。これまでの研究がp16Ink4aとp19Arfの両方の癌抑制遺伝子を同時に失活させていたのに対して,我々は今回の研究でp16Ink4aとp19Arfをそれぞれ単独でノックアウトした。これまでの研究ではp16Ink4aとp19Arfのどちらの遺伝子の失活がRMSの発生に重要なのか,あるいは片方の遺伝子のみの失活ではRMSの発癌には不十分で両方の遺伝子の失活が発癌に必要なのか不明であったが,今回の研究ではHGFtg+p19-/-マウスの35%にRMSの発生を認めたのに対して,HGFtg+p16-/-マウスでは5%にRMSの発生を認めたのみであった。またHGFtg+p53-/-マウスでは全例にRMS発生を認め(平均1.1ケ月),HGFtg+p53+/-マウスでも65%にRMS発生を認めたが,HGFtg+p19-/-マウスではその35%にRMS発生を認めた(平均2.5ケ月)ものの,HGFtg+p19+/-マウスでは6%にRMS発生を認めたのみであった。HGFtg+pl9-/-マウスとHGFtg+p16-/-マウスのRMS発隼率の違いはRMS発癌にはp9Arf/p53経路の不活性化が関与していることを示した。またHGFtg+p53+/-マウスとHGFtg+p19+/-マウスのRMS発生率の違いは,p19Arfとp53の横紋筋肉腫発癌に関する関与の違いを示唆し,シグナル伝達においてp53の上流に位置するp19Arfがp53に依存しない経路でも発癌に関係している可能性を示した
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