研究概要 |
過去の研究で,小児の膵胆管合流異常の症状はlithostathineでできたタンパク栓の閉塞機序により生じることを解明した。この症状発現機序に基づき,臨床例において発症後に可及的早期の内視鏡的胆道膵管造影を実施して,タンパク栓の存在を実証するとともに,その除去法を開発する臨床研究と,実際に摘出されたタンパク栓を用いて,各種薬品を用いた溶解実験をおこなう基礎研究を実施した。期間中に30名で膵管胆管造影が実施され,18名(60%)で陰影欠損が確認された。これは一般的に報告される小児での頻度(20%以下)を大きく上回った。10名でEBDチューブ5Fr5cmの留置を試みた。1名は挿入困難で断念したが,9名で実施できた。9名とも速やかに臨床症状は改善された。膵胆管合流異常患児に対する内視鏡的胆道ドレナージが新治療法として確立された。同期間に2名の患児からタンパク栓が得られ,基礎研究に用いた。タンパク栓のうち径約2mmのタンパク栓を溶解実験に用いた。蛋白栓は酸性および塩基性溶液に溶解することが判明した。蛋白栓はlithostathineの四量体が縦方向に電気的に結合する(片側に酸性アミノ酸残基-COO^-が,反対側に塩基性アミノ酸残基-NH_3^+が存在する)ことで形成されているので,酸・塩基はその作用を打ち消すことで溶解させると考えられる。すなわち,酸性溶液では酸性アミノ酸残基(-COO^-)はその負電荷を失い(-COOH),塩基性溶液では塩基性アミノ酸残基(-NH_3^+)がその陽電荷を失うことで結合力が消失して,溶解する。この作用は膵石の溶解作用とは明らかに異なる機序である。Lithostathine蛋白栓の溶解について報告はなく,独創性の高い研究結果となった。
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