研究概要 |
(1)まず昨年に引き続き、臨床例に関して多剤耐性遺伝子の発現を検討し、化学療法前後で比較した。その結果多剤耐性遺伝子MDR1、MRP1の発現は種々の小児腫瘍で認められ、またその発現は化学療法後の増強すること、また未分化な腫瘍細胞より分化した細胞で強く発現する傾向があることが判明した。またLRPは化学療法前はいずれの腫瘍にも発現は認められなかったが、化学療法を行うことにおり肝芽腫、腎芽腫において発現が新たに出現した。これらの成果は本年度の英国小児外科学会(ドイツ、ベルリン)にて発表し、また論文として掲載された(Oue T, Fukuzawa M, et al: Increased expression of multidrug resistance-associated genes after chemotherapy in pediatric solid malignancies. JPediatr Surg, 44:377-80,2009)。 (2)次に、神経芽腫細胞株において耐性遺伝子の発現の抑制実験を行うべく、神経芽腫細胞株を抗癌剤入りの培地で継代培養し、またin vivoの実験を行うべくヌードマウスの皮下移植腫瘍を作成した。しかし神臨床例の検討でも判明したように、抗癌剤によりMDR1、MRP1など種々の耐性遺伝子が同時に発現亢進するため、これらのうち一つのみを抑制しても抗癌剤の耐性の低下は得られず、期待されるような臨床効果が得られないことが考えられ、RNA干渉による多剤耐性遺伝子抑制の治療への応用は単独では困難であることが判明した。従って化学療法はこれらの耐性遺伝子が誘導される前に短期集中的に行うことが重要であることが示唆された。今後は化学療法後に摘出した腫瘍でこれら耐性遺伝子を調べることにより、その後の治療への反応性を予測するなどの応用が考えられた。
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