まず、脂肪組織の創傷モデルとして、マウス皮下脂肪の阻血再還流傷害モデルを開発した。鼡径部の皮下脂肪に流入する血管を露出して血管クリップで3時間阻血にした後、血流を再開させることにより、著明な細胞浸潤や組織リモデリングを伴いながら約2週間で治癒するモデルが確立された。このモデルにおいて、FGF-2 は創傷1日目の早期から発現が見られるのに対し、HGF はそれより遅れる形で3日目から7日目にかけて発現が上昇してくることが免疫染色や Western blotting により確認された。また、その HGF の発現上昇に一致して、CD34陽性の脂肪由来幹細胞が増殖していることも免疫染色や Flow cytometry により確認された。このモデルに FGF-2 の中和抗体や JNK 阻害剤を投与すると、BrdU陽性の増殖細胞が減少し、さらに、HGFの発現が抑制されることが判明した。このような阻害を行うと、2週間後の繊維化 (Azan染色) が増加していた。繊維化の増加は、HGF の中和抗体を投与した場合でも同様に認められた。以上の結果から、脂肪由来幹細胞は、創傷治癒の過程でFGF-2 の刺激を受け、JNKを介して増殖や HGF 分泌を亢進し、創傷治癒過程における線維化抑制に重要な働きをしていることが示唆された。脂肪由来幹細胞を細胞治療に用いる場合、血管新生効果のみならず、線維化抑制の効果も期待できると考えられる。また、その際は、FGF-2 を併用することにより、HGF を介した治療効果が高まることが期待される。
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