研究概要 |
末梢性顔面神経麻痺の手術治療として,顔面神経と舌下神経の間を移植神経によって架橋する手術(クロスリンク手術)が近年脚光を浴びているが,その治療機序については未解明な点が多い.本研究は,顔面神経-舌下神経クロスリンク手術において構築されている神経回路を神経トレーサー法で解析することを目的としており,平成19年度は順行性トレーサーを用いるラットモデルの新規開発を主な研究課題とした. Wistar糸のアダルトラットを対象として,深麻酔下に実験を行った.1)順行性トレーサー注入手技の確立:脳定位固定装置を用いてラットを固定した後,穿頭してラットの舌下神経核,顔面神経核に神経トレーサーを微量注入した.3日間の生存期間後に,脳および舌下神経,顔面神経を摘出して凍結組織切片を作成し,蛍光顕微鏡による観察に供した.この結果,ラットの舌下神経核,顔面神経核のみに神経トレーサーを微量注入する手技を確立し得た.2)クロスリンク手術後神経回路の順行性トレーサーによる解析モデルの開発:ラットの舌下神経,顔面神経本幹を露出した後,大伏在神経の自家移植によってそれぞれを架橋した.術後4週時に上記方法によって舌下神経核へ神経トレーサーを微量注入し,さらに7日間の生存期間後に脳および舌下神経-移植神経-顔面神経を摘出した.摘出標本から凍結組織切片を作成し,蛍光顕微鏡による観察に供した.この結果,ラット舌下神経から移植神経を介して末梢顔面神経へ流入する神経線維が単線維レベルで確認された.一連の実験により,クロスリンク手術後の神経回路を順行性トレーサー法で解析するモデルを確立し得た. 神経回路を解析する上で順行性トレーサー法は極めて有効な手段であるが,これまでラットの舌下神経,顔面神経を対象とする手技は報告されていない.本研究で確立した実験手技により,クロスリンク手術後の神経回路解析が大きく前進することになる.
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