研究概要 |
【目的】新しい概念に基づく末梢性顔面神経麻痺の手術治療として,顔面神経と舌下神経の間を移植神経によって架橋する手術(クロスリンク手術)が脚光を浴びているが,その治療機序については未解明な点が多い.本研究は,顔而神経-舌下神経クロスリンク手術において構築されている神経回路を神経トレーサー法で解析することを目的としており,平成20年度は,前年度に新規開発した順行性トレーサーを用いたラットモデルによる解析を主な研究課題とした.【方法】Wistar系のアダルトラットを対象として,深麻酔下に実験を行った.順行性トレーサーの注入手技は既に報告した方法に準じた(榊原,橋川ら,2008).1)ラットの舌下神経,顔面神経本幹を露出した後,大伏在神経の自家移植によってそれぞれを架橋した.2)術後4週後に,脳定位固定装置を用いてラットを固定した後,穿頭してラットの舌下神経核,顔面神経核に神経トレーサーを微量注入した.3-7日間の生存期間後に,脳および舌下神経,顔面神経を摘出して凍結組織切片を作成し,蛍光顕微鏡による観察に供した.【結果】ラット舌下神経核から移植神経を介して末梢顔面神経へ流入する神経線維,顔面神経核から移植神経を介して末梢舌下神経へ流入する線維が,それぞれ単線維レベルで確認された.【結論】顔面神経-舌下神経クロスリンク手術により,麻痺状態の顔面神経へ舌下神経が流入していること,顔面神経が舌下神経へ流出していることが示された.後者は新たに明らかとなった知見であり,病的線維が優先的に流出している可能性がある.そうであれば末梢神経障害に対する手術治療の概念を大きく変え得るため,今後の研究課題としたい.
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