研究概要 |
本研究では、臨床応用に直結した基礎研究を行うという観点から、ヒト耳介の三次元形状と力学的特性を有する軟骨の再生を試み、その長期結果を検討した。検討項目は肉眼所見,形状計測,力学試験,組織像とした。まず、ヒト耳介形状を有するscaffoldを生分解性ポリマー(poly(L-lactide-o-caprolactone 50:50)共重合体)を用いて作製した。続いて、仔ウシの4カ所の軟骨(耳介軟骨、肩関節軟骨、鼻中隔軟骨、肋軟骨)を採取して遊離軟骨細胞を調整し、scaffoldに播種した。その結果、耳介軟骨細胞、肩関節軟骨細胞、鼻中隔軟骨細胞に由来する再生軟骨群において、ヒト耳介特有の複雑な三次元形状が良好に再現され、かつ移植後40週の長期にわたって維持された。一方、肋軟骨細胞に由来する再生軟骨群では、耳介特有の三次元形状は失われ、散在する骨様突起を認めた。組織学的に、突起基部は石灰化軟骨,突起部は骨細胞の存在する骨組織から構築され、成長帯の形成が観察された。 各再生耳介形状軟骨における大きさ(長さおよび幅)の変化を検討した。その結果、コントロール群(ポリマーのみ)では、ポリマーの長さおよび幅が伴に有意に縮小し、経時的に顕著な縮小を認めた(p<0.01)。一方、細胞播種した再生軟骨群では、全く縮小することはなかった。むしろ、僅かながら大きくなる傾向を示し、特に耳介軟骨細胞を播種した再生軟骨群は、経時的に、有意に長くなった(p<0.01)。また、厚さ(対耳輪および耳甲介腔)の計測結果では、鼻中隔軟骨細胞および肋軟骨細胞に由来する再生軟骨群において、移植後10週目において、すでに有意な増加を認めた。これらの結果より、耳介軟骨細胞に由来する再生軟骨群では、特に長さにおいて有意な変化が認められた。また、鼻中隔軟骨細胞および肋軟骨細胞に由来する再生軟骨群では、移植後早期に、長さ、厚さにおいてそれぞれ有意な増加を認めた。次年度は、力学的特性を調べる目的で、Instronを用いて再生軟骨の折り曲げ応力の測定および組織学的検討を予定している。
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