膜貫通型のヘパラン硫酸プロテオグリカンの1種であるアグリンは胎生期神経系に強く発現し、脳発生、神経回路形成において重要な働きをしている。とくに神経の軸索誘導などに関与するほかに、血管周囲に発現し脳血管関門の形成にも働いている。成体神経系におけるその機能は不明な点が多い。今回、我々はアグリンが中枢神経損傷部位において発現しているか否かを凍結脳損傷モデルにおいてin situ hybridizationと免疫染色を用いて検討したところ損傷部位周囲のアストロサイトに発現しており損傷後7日後に強くなることが判明した。また、免疫染色ではアストロサイトだけではなく損傷部位周囲の血管にも発現していた。このため、免疫電顕を用いてこの血管周囲の発現を観察したところアストロサイトが新生血管にのばした側突起に発現していることが判明した。胎生期の脳形成においてアグリンは脳血管新生に重要な働きをしていることがすでに知られており、この現象は同様に損小脳を再生する一連の過程の中で血管新生に係わっている可能性が示唆された。とくに損小脳においては脳血管関門は破綻するためこれを修復しているものと思われる。また、アストロサイト上のアグリンは神経伸長因子のHBGAMやFGF2と共発現しており、胎生期における神経伸長の役割を担っている可能性があると考えられる。我々のこれまでの研究よりアグリンをはじめヘパラン硫酸プロテオグリカンは脳損傷に対して様々な脳神経再生に向けた役割を担っている可能性が判明した。
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